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国語シリーズ
教科書は、同じ年の子どもが全国で同じ文章を読む、数少ない場所です。何を載せるかに、その時代の教育の考え方が表れます。
国の方針は、答申や学習指導要領という文書に書かれます。しかし子どもが実際に手に取るのは、文書ではなく教科書です。方針が変わったとき、教科書の中身がどう変わったか、あるいは変わらなかったかを見ると、方針が教室にどう届いたかが分かります。
このページでは、国が教科書をつくった時代から、民間の教科書を国が検定するいまの仕組みまでを追い、そのうえで、何十年も載り続けている「定番教材」がどうして生まれたのかを、研究をもとに整理します。制度と方針の流れは、「国語の歩み」のページに年表でまとめています。
明治の終わりから敗戦まで、小学校の国語の教科書は、文部省がつくった1種類だけでした。
1886年(明治19年)
小学校の教科書に検定制度
民間の会社がつくった教科書を、国が審査して使わせる仕組みでした。
1903年(明治36年)4月
小学校令を改正し、国定教科書の制度に
前年の1902年、教科書の採択をめぐる審査委員と教科書会社の贈収賄が摘発され、30を超える府県で100人以上が処罰されました(いわゆる教科書事件)。検定制度への批判が高まり、そのままの形で続けるのは難しくなっていました。修身・日本歴史・地理の教科書と国語読本は、必ず国定教科書を使うと定められました。
1904年(明治37年)
国定の国語読本の使用が始まる
国語読本・書き方手本・修身・日本歴史・地理の国定教科書が使われ始めました。
戦時中
国民学校の教科書
国民学校の1・2年生用には「ヨミカタ」など16点の教科書があり、多色刷りでした。戦争が長引くと色刷りは早くに廃止され、1944年(昭和19年)には教科書の表紙も墨一色に改められました。
| 時期 | 始まりの年 | 国語の教科書の書名 |
|---|---|---|
| 第一期 | 1903年(明治36年) | 『尋常小学読本』 |
| 第二期 | 1909年(明治42年) | 『尋常小学読本』 |
| 第三期 | 1918年(大正7年) | 『尋常小学国語読本』 |
| 第四期 | 1933年(昭和8年) | 『小学国語読本』 |
| 第五期 | 1941年(昭和16年) | 『初等科国語』(1・2年生は「ヨミカタ」) |
時期と書名は、鈴木雅裕(2021年)の整理によります。第五期の1・2年生用は『学制百年史』によります。


この読本は、全国の小学1年生が同じ年に開いた1冊です。中身には国の考えも表れます。たとえば、古事記・日本書紀に出てくるヤマトタケルの話は、第二期から第五期まで、国語の教科書にくり返し載りました。第三期では3年生の巻五に「熊襲征伐」として載っています。王権が国内を平定していく物語を、子どもが国語の時間に読んでいたことになります。
国定の時代から読み取れること
全国の子どもが、同じ年に、同じ文章で読み書きを学んだ時代でした。教科書は、国が国民に何を共有させたいかを、そのまま形にしたものでした。紙の色や表紙まで、国の状況に合わせて変わっています。
1945年9月20日
文部省が「終戦ニ伴フ教科用図書取扱方ニ関スル件」を通知
使っている教科書のうち、修正・削除する教材の基準と例を示しました。北海道庁が各学校に伝えた文書には、国防軍備などを強調するもの、戦意高揚に関するもの、国際の和親を妨げるおそれのあるもの、戦争終結後の現実とかけ離れたもの、が挙げられています。
1945年12月
神道に関する記述の削除と、修身・日本歴史・地理の停止
占領軍の指令で、使用中の教科書と教師用の参考書から神道の教義に関する事項がすべて削除され、修身・日本歴史・地理の授業は停止されました。これらの教科書は回収され、新しい教科書の編集が命じられました。
1946年1月25日
削除・修正する箇所を細かく指定
「国民学校後期使用図書中削除修正箇所ノ件」で、対象となる教材が細かく指定されました。
1947年
新しい学制(六・三制)が始まる
民間の多様な教科書が生まれることを期待して検定制度とすることになりましたが、間に合わず、暫定的に文部省がつくった教科書を使う形で始まりました。
1949年度
検定を受けた教科書の使用が始まる
1949年度から使う教科書の検定が始まり、いまにつながる「民間がつくり、国が検定する」仕組みになりました。
「墨塗り教科書」
墨塗りは、占領軍の指令(1945年10月の「日本教育制度ニ対スル管理政策」、12月の神道と修身・日本歴史・地理についての指令)より前に、文部省自身の9月20日の通知から始まっています。通知を受けて、子どもたちは使っていた教科書の該当箇所を墨で塗りつぶしました。こうして修正された教科書は「墨塗り教科書」と呼ばれています。実際には墨を塗るだけでなく、紙を貼る、ページごと切り取るといった方法も使われました。青森市民図書館の歴史資料室には、真珠湾攻撃についての読み物「ハワイ海戦」の一節が載ったページに、白い紙を貼って隠した習字の教科書が残っています。
検定制度のもとでは、教科書をつくる会社が複数あり、載せる文章も会社ごとに選べます。それでも、ほとんどの会社が同じ作品を載せ続けている例があります。こうした作品は「定番教材」と呼ばれます。
| 作品 | 主な学年 | 教科書に載るまで |
|---|---|---|
| 新美南吉「ごんぎつね」 | 小学4年 | 1956年度の大日本図書の小学4年の教科書に初めて載りました。1980年度以降は、すべての会社の小学4年の国語の教科書に載っていると報じられています(朝日新聞・2016年)。 |
| 芥川龍之介「羅生門」 | 高校1年 | 1915年に発表されたあと、約40年間は教科書に載りませんでした。初めて載ったのは1956年発行の3冊で、いまの高校1年用に載せたのは翌年の三省堂版が最初です。2003年には採録率が100%になりました。 |
| 夏目漱石「こころ」・森鷗外「舞姫」 | 高校 | 「羅生門」と同じ時期(1950年代半ば)に、初めて教科書に採用されたとされています。 |
| ヘルマン・ヘッセ「少年の日の思い出」 | 中学1年 | 1947年に文部省がつくった教科書『中等国語二(2)』に初めて載りました。その後、学年が下がって1年生に定着しました。 |
| 太宰治「走れメロス」 | 中学2年 | 1956年度の中教出版『国語 総合編』に初めて載りました。はじめは高校の教科書にも載り、中学でも3年用と2年用が混ざっていましたが、1970年代以降は2年用に定着しました。2015年の論文の時点で、すべての中学の教科書に載っていました。 |
| 魯迅「故郷」(竹内好 訳) | 中学 | 2007年の論文の時点で、日本のすべての中学の国語の教科書(5社)に載っていました。 |
「羅生門」は坂東智子(2022年。幸田国広・庄司達也の2021年の研究を整理)、「走れメロス」は幸田国広(2015年)と佐野幹(2017年)、「少年の日の思い出」は片岡悠理(2025年)、「故郷」は丁秋娜(2007年)によります。高校では「羅生門」「山月記」「こころ」「舞姫」の4作品が「四大定番」と呼ばれることもあります。
「名作だから載り続けている」と考えがちですが、研究者の見方はもう少し複雑です。
この3段階を整理した幸田国広さん(2021年)は、作品の良し悪しだけで定番化を説明するのではなく、定番教材という現象そのものが社会の状況や制度との関係の中でどう生まれたのかを問うべきだ、と述べています。教え方の手順、進学率、教科書の市場。名作であることに、こうした条件が重なって、全員が読む文章が生まれました。
高校の4つの定番作品について研究を比べた発表(2014年)は、研究者の見方が二段に分かれると整理しています。定番になったのは、学習指導要領で文学を読む目的が「読書の習慣」から「読解力」へ移ったため。定番であり続けているのは、少子化で教科書の市場が縮む中、会社が生き残るための対策として同じ並びを保っているため、という見方です。
教科書の中身は、国が直接決めているわけではありません。それでも、学習指導要領の科目の作り方が変わるたびに、定番教材の載り方も動いてきました。
国の方針が、教材の選び方と読ませ方を変えた例があります。
同じ作品でも、何のために読ませるかで、載せ方も問いも変わります。教育学者の幸田国広さん(2015年)は、文学の教材が「道徳性を育てる」ことと「読解力を育てる」ことの二つの目的のあいだで揺れてきた、と整理しています。
2018年に告示された高校の学習指導要領で、国語の科目が組み直されました。全員が学ぶ科目は、実社会で必要な国語の力を育てる「現代の国語」と、受け継がれてきた言語文化を学ぶ「言語文化」の2つです。
論理か文学かをめぐる議論は、国語をめぐる議論と論点 にまとめています。
1980年代以降に日本の小学校に通った人の多くは、4年生で「ごんぎつね」を読んでいます。2003年以降に高校1年だった人は、ほぼ全員の教科書に「羅生門」が載っていました。定番教材は、世代をこえて多くの人が共有している文章でもあります。
一方で、定番だから良い教材だ、とは言い切れません。研究が示すとおり、定番になった理由には、教えやすさや教科書の市場の事情も含まれています。また、小説を読むには、日本の暮らしや心情の背景を知っていることが前提になる場面が多く、海外で育った子どもにはつまずきやすい題材です。
南数塾の国語科は、このため授業の題材を論説文・説明文を中心にしています。筋道を追って読み、要約し、根拠を示して書く力は、どの国の学校の勉強にもそのまま使えるからです。定番の小説は、ご家庭で読む本として、青空文庫で誰でも無料で読めます。
第一言語を育てる考え方は 第一言語と第二言語:研究は何を示しているか、授業と宿題は 国語科のページ にまとめています。
2026年10月30日時点で確認した情報です。最新の内容は、それぞれの公式の資料でご確認ください。