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国語シリーズ
第二言語の力は、第一言語の力の上に育つ。50年近く前から、研究はそう示してきました。
「小さいうちに英語漬けにすれば、英語も考える力も両方伸びる」「家で日本語を話していれば、日本語は大丈夫」。海外で子育てをしていると、どちらもよく耳にします。
二つの言語で育つ子どもの学びについては、1970年代から研究が積み重なっています。このページでは、その中心にある研究と、国際機関の文書を原文から読み、反対の結果を示す研究もあわせて並べます。
二つの言語で育つ子どもの研究で、いまも最もよく引かれる論文の一つです。カナダの研究者 J. カミンズが、学術誌 Review of Educational Research に書きました。
下のしきいを越えれば、二つの言語で育つことによる悪い影響は避けられる。上のしきいまで越えると、二つの言語で育つことが考える力によい影響を与えうる。カミンズは、二つの言語の力の水準が、バイリンガルの効果の出方を左右すると考えました。
この仮説から言えること
第二言語に切り替える前に、第一言語でどこまで「学ぶための力」を育てていたかが、その後の第二言語の伸びにも関わる、ということです。第一言語を止めて第二言語に置きかえるのではなく、第一言語の上に第二言語を足していく形が、学びにとってよいと考えられています。
カミンズは、言葉の力を二つに分けて考えました。日常の会話の力(BICS)と、教科を学ぶための言葉の力(CALP)です。IB の公式文書も、この区別を使って、子どもの言葉の育ちを説明しています。
| 日常の会話の力(BICS) | 教科を学ぶための言葉(CALP) | |
|---|---|---|
| どんな力か | 身ぶりや場面の手がかりがある中で、人とやりとりする力 | 手がかりの少ない抽象的な内容を、読んで理解し、書いて説明する力 |
| 身につくまで(目安) | 1〜3年ほど | 5〜7年ほど |
| 見えやすさ | 話せるので、周りにもすぐ分かる | 会話が流暢だと、育っていないことに気づきにくい |
年数は目安で、個人差や学習環境による差があります。
国際バカロレア機構(IB)の公式文書『IB プログラムにおける「言語」と「学習」』(日本語版は2014年・文部科学省の支援で翻訳)から、母語についての記述を拾いました。
英語で学ぶ国際教育の中心にいる IB 自身が、母語を「保ち、伸ばすもの」として扱っています。英語で学ぶことと、第一言語を育てることを、対立するものとは見ていません。
世界銀行は、子どもが学ぶ言葉についての報告『Loud and Clear』を出し、次の五つの原則を示しました。
| 世界銀行の原則(要約) | |
|---|---|
| 1 | 幼児期から、少なくとも小学校の最初の6年間は、第一言語で教える |
| 2 | 読み書きだけでなく、ほかの教科も第一言語で教える |
| 3 | 第二言語は外国語として、まず話す・聞くことから入れる |
| 4 | 第二言語が授業の主な言葉になってからも、第一言語の授業を続ける |
| 5 | 言語の方針を、状況に合わせて計画し、見直し続ける |
世界銀行は、家で話す言葉で学ぶ子どもは、より多くを学び、学校に長くとどまり、後で第二言語を学ぶための土台も強くなる、としています。低・中所得国では、生徒の約37%が家で話さない言葉で学んでいるとしています。
読み方の注意
この報告は、主に低・中所得国の公教育を対象にしています。海外のインターナショナルスクールで学ぶ日本人の子どもと、そのまま同じではありません。それでも、第二言語が主になってからも第一言語を続けるべきだという原則は、どの環境にも通じる考え方です。
では、第二言語(英語)で教科を学ぶと、内容の理解は必ず下がるのでしょうか。大学で英語を使って教える授業についての研究を総まとめした論文(Macaro ほか、2018年・83本の研究を対象)は、慎重な結論を出しています。
「英語で学ぶと必ず理解が下がる」とまでは、研究は言っていません。大切なのは、第二言語で学ぶかどうかより、その子が学ぶための言葉を、どれか一つの言語で深く持っているかどうかです。カミンズの研究と IB の文書は、その「どれか一つ」として、第一言語が土台になると示しています。
海外のインターナショナルスクールで学ぶ子どもは、教科の授業を英語で受けています。英語で学ぶこと自体は問題ではありません。問題になりやすいのは、第一言語の日本語が「家族と話す言葉」のままで、学ぶための言葉に育たないまま、英語だけに頼ることです。
カミンズの研究、IB の文書、世界銀行の原則は、言い方は違っても同じ方向を指しています。第一言語を止めずに、その上に第二言語を足していくこと。南数塾の国語科は、この考えから、第一言語の日本語で考える力を育てています。
海外で日本語を保つ取り組みについては 継承語としての日本語:海外の子どもと母語、国の文書については 国は、国語をどう考えてきたか にまとめています。
2026年10月30日時点で確認した情報です。最新の内容は、それぞれの公式の資料でご確認ください。